【考察】同じ「8段」なのにCanonとSONY で手ぶれ補正の感触が違う理由を考える

※この記事は、筆者個人が実際にカメラを使用して感じた印象をもとにした、技術的な可能性を探る考察です。特定の製品の優劣を断定するものではなく、あくまで一個人の感想と分析としてお読みください。

カメラのスペック表を見ていると、CanonのRFマウントとSONYのEマウント、どちらのカメラにも「最大8段分の手ぶれ補正」という魅力的な言葉が並んでいます。しかし、実際に両方のカメラを使ってみると、同じ「8段」のはずなのに、補正の“感触”が少し違うと感じたことはありませんか。

今回は、この「なぜか感じる性能の差」という素朴な疑問について、その原因を個人的に考察してみました。その答えは、カメラの基本的な構造、特に「マウント」やレンズを含めたシステム全体の設計思想の違いにありそうです。

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同じ「8段」なのに、なぜか違う?私が感じた“補正の質”

まず、私が個人的に感じている「感触の違い」について、少し具体的に整理します。

細かい揺れへの対応は、どちらも驚くほど優秀

静止して風景を撮ったり、物撮りをしたりする際の、手の微細な震え。こうした「細かい揺れ」に対しては、RFマウントもEマウントも甲乙つけがたいほど優秀です。どちらのカメラを使っても、息を止めて集中すれば、まるで三脚を使ったかのようなシャープな写真を撮ることができます。この点においては、スペック通りの素晴らしい性能を体感できます。

違いを感じるのは「大きな揺れ」の限界点

私が「おや?」と感じるのは、カメラを持って歩いたり、少し不安定な体勢で撮影したりする時です。
こうした「大きな揺れ」が加わった際、補正が効く限界値に差があるように思うのです。

あくまで私の印象ですが、RFマウントの方がより大きな動きを滑らかに吸収し、限界点が高いと感じます。一方で、Eマウントは、ある一定の揺れを超えると補正が追い付かなくなり、映像がカクっと動いてしまうことがある、という印象です。

この「補正の限界値」の違いこそが、スペックの数字だけでは分からない「感触の差」の正体だと考えています。

なぜ差を感じるのか?考えられる3つの技術的要因

では、なぜこのような「感触の違い」が生まれるのでしょうか。ここからは私の個人的な考察になりますが、カメラの物理的な設計にそのヒントがありそうです。

※マウント径に関する話題は、各社の設計思想の根幹に関わる部分です。ここでは優劣ではなく、あくまで「構造上の違い」が性能にどう影響する可能性があるか、という視点で公平に考察します。

要因1:センサーシフトの物理的ストロークとマウント内径の関係

ボディ内手ぶれ補正(IBIS)は、ジャイロセンサーが検知したブレに応じて、センサーユニットを物理的に動かして像を安定させます。この「センサーを動かす」という動作には、当然ながら物理的な可動範囲(ストローク)の限界があります。

  • Canon RFマウント:内径54mm
  • SONY Eマウント:内径46mm

このマウント内径の差は、センサーユニットを保持・駆動させるアクチュエーターを含めたIBISユニット全体の設計自由度に直結します。RFマウントは内径が大きいため、センサーを大きく動かしてもユニットの一部がマウント内壁に物理的に干渉するまでのマージンを確保しやすい構造です。このマージンが、大きな並進ブレ(X軸/Y軸のシフト)や回転ブレ(Roll)に対する補正ストロークの大きさに繋がり、結果として歩行時などの低周波で振幅の大きな揺れに対する補正限界を高めていると考えられます。

対してEマウントは、APS-Cミラーレス機から続くマウント径を採用しており、フルサイズ機においてもボディの小型化という大きなメリットを維持しています。この小型化の思想の中でIBISユニットを収めるため、物理的なストロークにはある程度の制約が生じることは想像できます。細かいブレには十分な性能を発揮しつつも、大きなブレに対しては、物理的な限界点がRFマウントに比べて手前に設定されているのかもしれません。

要因2:イメージサークルのマージンと周辺画質の維持

レンズが結像する円(イメージサークル)の大きさも、手ぶれ補正の「質」を左右する重要な要素です。IBISは、このイメージサークルの中でセンサーを動かすことで機能します。

手ぶれ補正によってセンサーが中心から大きくオフセットした場合、センサーの四隅はイメージサークルの周辺部に近づきます。レンズの光学特性上、イメージサークルの周辺部は中心部に比べて解像度や光量が低下する傾向にあります。もしセンサーがイメージサークルのマージンの少ない部分まで移動してしまうと、たとえブレは止まっていても、写真の四隅が暗くなったり、像が流れたりといった画質劣化が顕著になる可能性があります。

RFマウントは、大口径・ショートバックフォーカスという設計思想により、光学的に余裕のある、つまり画質劣化の少ない領域が広いイメージサークルを持つレンズを設計しやすいというメリットがあります。この「余裕のあるイメージサークル」は、IBISがセンサーを大きく動かしても画質を高いレベルで維持できることを意味します。メーカーはこのマージンを信頼し、より積極的にセンサーを大きく動かす制御アルゴリズムを組むことが可能になるのです。

要因3:協調制御の思想と「レンズ側の役割」の有無

両メーカーとも協調補正を謳っていますが、その効果を最大限に発揮するには、当然ながらレンズ側にも手ぶれ補正機構が搭載されている必要があります。このレンズ側の補正機構の有無が、特に標準ズーム域の望遠端で体感差を生んでいる可能性があります。

焦点距離が長くなるほど、わずかな角度ブレ(Pitch/Yaw)は像の大きな揺れとして増幅されます。この望遠域での角度ブレ補正は、レンズ内の補正ユニット(IS/OSS)が最も得意とする分野です。

  • Canonの標準ズーム(例:RF24-70mm F2.8 L IS USM)
    多くの高性能標準ズームにレンズ内ISが搭載されています。これにより、望遠端の70mmでは、レンズISが角度ブレを強力に補正し、IBISが回転ブレや微細なブレを補正するという、理想的な協調補正が機能します。
  • SONYの標準ズーム(例:FE 24-70mm F2.8 GM II)
    最新の高性能標準ズームレンズの一部では、OSS(レンズ内手ぶれ補正)が非搭載となっています。この場合、70mmでの手ぶれ補正はボディ内のIBISが単独で担うことになります。IBISも5軸で角度ブレを補正しますが、望遠になるほど増幅される大きな揺れに対しては、専用設計されたレンズISほどの補正量を確保するのが原理的に難しい場合があります。

このため、OSS非搭載レンズを装着した場合、望遠端でのファインダー像の安定感や、補正の限界点において、協調補正がフルに機能するシステムとの「体感差」が生まれる一因となっている可能性があるのです。

一方で、OSSユニットを省略する設計には、レンズの小型軽量化や、より複雑で高度な光学設計にリソースを集中できるという明確なメリットが存在します。これは、レンズ単体の性能を極限まで追求するという、SONYの合理的な設計思想の表れと言えます。

結論:優劣ではなく、設計思想から生まれる「個性」の違い

以上の考察から、同じ「8段」というスペック表記の裏には、各社の設計思想に基づいたアプローチの違いがあり、それが「個性」となって現れているというのが、今回の私の結論です。

  • Canon RFマウント:物理的な余裕を活かした「懐の深い」補正
    大口径マウントがもたらす物理的なストロークの大きさと、余裕のあるイメージサークルというハードウェアの優位性を基盤としています。これにレンズIS搭載を前提とした効率的な協調制御を組み合わせることで、特に大きな揺れや望遠域の揺れに対して、画質劣化を伴わずに対応できる限界値が高いという特徴に繋がっているのでしょう。
  • SONY Eマウント:システム全体で最適化された「クレバーな」補正
    ボディの小型化というEマウント最大のメリットを維持しつつ、限られた物理的スペースの中で最大限の効果を発揮させる先進的な制御技術が光ります。大きな揺れに対しては強力な電子手ぶれ補正を併用したり、一部のレンズではOSSを非搭載とすることでレンズ自体の光学性能や小型軽量化を優先するなど、システム全体で何を重視するかを明確にした、クレバーで合理的な思想が特徴です。

これはどちらが優れているかという単純な話ではありません。
ユーザーが何を重視するかによって、その評価は変わってくるはずです。

まとめ:自分の機材の「個性」を理解して撮影をもっと楽しもう

最後に、今回の考察のポイントをまとめます。

  • 同じ「8段」の手ぶれ補正でも、個人的な体感として、特に大きな揺れや標準ズームの望遠端での補正に違いを感じることがある。
  • その原因として、マウント径に起因するIBISユニットの物理的ストロークや、イメージサークルの光学的マージンレンズ側の補正機構の有無を含めた協調制御の思想など、複数の専門的な要因が考えられる。
  • これらはシステムの優劣ではなく、Canonの「物理的な余裕を活かした補正」と、SONYの「システム全体で最適化を図る補正」という、設計思想からくる「個性」の違いと捉えることができる。

カメラ選びは本当に奥が深いものです。スペックの数字を比較するだけでなく、その背景にある設計思想や、自分の撮影スタイルに合った「個性」を持つ機材はどれか、という視点でカメラと向き合うと、もっと撮影が楽しくなると思います。

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